シリーズ【イギリスの幼児教育】 第5回:『保育学校の創始者』マクミラン姉妹
イギリスとゆかりのある幼児教育・保育の偉人たちを紹介しているこのシリーズ。今日は、イギリスの『保育学校の創始者』であるマクミラン姉妹についてです。
現在のイギリスのナーサリー・スクールはここから誕生
マーガレット・マクミラン(Margaret McMillan:1860 – 1931)は、姉のレイチェル・マクミラン(Rachel McMillan:1859–1917)とともに、イギリスで初めて『保育学校」を設立した人物です。現在のイギリスの就学前の教育・保育はEYFS(Early Years Foundation Standard)という指針で統括されていて、日本のように保育園では養育を・幼稚園では教育をというような分け隔てがありません(参照記事はこちらから)。その保育・幼児教育が行われる施設に「ナーサリー・スクール」と呼ばれるものがあるのですが、その原型となったのがまさにこのマクミラン姉妹が始めた『保育学校』なのです。
知的教育より根本的なニーズとは
前回の記事にありますロバート・オーウェンの功績により、19世紀末には義務教育の基盤が誕生しました。とは言え、実際の現状はほど遠く、未だ富裕層と労働層の間には教育の差が歴然とありました。当時、教育と言えば知的教育にフォーカスが置かれていました。しかし、労働層の実生活は劣悪な衛生環境の中にあり、そこで暮らす多くの子ども達を目の当たりにしたマクミラン姉妹は、「子ども達が育つためには、まずは衛生的な環境が必要で、それを生活習慣として身に付けることが最重要課題だ」と考えたのです。そこで姉妹は、1914年ロンドンに初の『保育学校』を設立しました。ここでは、共働きの家庭の5歳未満の子どもを対象にして、衛生的な習慣を身に付ける活動を行いました。手洗い、沐浴、昼寝を習慣づけ、屋外で体を動かすことを推奨し、子ども達が自由な遊びを通じて学び、子どもの興味を引くような環境作り(園庭、花壇、菜園など)を実現させました。
ネットワークを駆使した地域全体での子育ての枠組み作り
また、マクミラン姉妹は、学校に健康診断や給食制度を取り入れるよう積極的な運動も展開しました。地域の医療制度と協力関係を築き、近隣の子どもを持つ親たちのよりどころとなるような施設・環境作りにも力を注ぎました。
そして、1918年の教育法(フィッシャー法)では、14歳までの子どもの義務教育が定められるのと同時に、保育、健康診断、追加支援といった補助サービスの提供が組み込まれるまでに至りました。このことからも、姉妹の活動が教育の基礎は幼少期の保育・幼児教育にあることを世に知らしめたと言えるでしょう。
現在は、保育・幼児教育施設が地域の子そだてネットワークとして重要な役割を果たしています。その仕組みを作り上げたのがこのマーガレットとレチェルの二人姉妹だったのです。