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シリーズ【イギリスの幼児教育】 第7回:『教員養成の先駆者』 デビッド・ストウ

イギリスとゆかりのある幼児教育・保育の偉人たちを紹介しているこのシリーズ。今回は、質の高い教育者・保育者を育てる大切さを説き、教員養成の『師範学校』を初めて創設したスコットランド人、デビッド・ストウ(David Stow, 1793-1864)をご紹介します。

ストウはスコットランドのグラスゴー近郊の裕福な家庭に生まれ育ち、18歳になるとシルク商人としてグラスゴーにやってきました。そこでストウが目にしたのは、グラスゴー中心部に住む人々の劣悪な生活環境。胸を痛めたストウは、慈善活動に積極的に関わるうちに、やがて教育に関心を持つようになります。その時ストウに強く影響を与えたのが、当シリーズでも以前ご紹介したサミュエル・ウィルダスピンロバート・オーウェンです。特にウィルダスピンとは親交があり、彼の講演を聴講しにロンドンまで出向いたり、ウィルダスピンをグラスゴーに招き講演を大成功させたりといった活動も行いました。

ユニセフ大使のパディントンがお手伝い

1827年には「グラスゴー幼児学校協会」を創設、翌年には幼児学校を設立し、自身の考案した教育システムの足掛かりとしました。しばらく後に、このシステムを幼児だけではなく14歳までの子どもにも適用し、「グラスゴー教育協会」を創設、1937年にはその教育システムを使う教師を育成するための「グラスゴー師範学校」を設立するまでに至りました。

ストウの教育システムは「グラスゴー・システム」と呼ばれていて、「共感  (sympathy)」と「体・知・徳 (physical, intellectual, moral)」という概念に着目しているのが特徴です。その中でも「共感」という概念は、このストウが明確化して教育に取り入れたことで、近代の幼児・初等教育に大きく貢献したと言われています。「共感は、人間がもつ自然原理のうちで最もパワフルかつ効率的である」とし、同年代の人々の間では特に共感しやすいという特性を使って、同じ年齢の子ども達をまとめて集団における教育を行いました。

Dundas Vale Normal Seminary ヨーロッパ初の教員養成を目的とした師範学校

それまでの教育とは「知識の集積、知識の伝達」といった知育に偏ったものでした。しかしストウはそれでは不十分だとして、身体的、知的、道徳的の3つの側面を鍛える教育を通じて子どもを「全人的人間 (whole man)」 に育てるべきだと唱えたのです。ただ当初は、以前からある日曜日に通う教会学校の慣習をそのまま引き継ぎ、学校へは週1回だけ通うというものでした。その為に、たった1日学校で良い教育・良い共感を行っても、残り6日間の劣悪な環境での悪しき習慣・悪しき共感には対抗できずに、ストウのシステムは始めは思ったほどの効果が出ませんでした。この経験がストウを週日学校の設立へと導き、子ども達は平日学校へ通うという今の習慣ができたのです。そしてそれを実現すべく資質のある教育者を確保するために、ストウは師範学校の設立に尽力しました。それが、ストウが『教員養成の先駆者』と言われる所以です。

現行のイギリスの教育指針EYFSにもある、共感なども含めた情緒的発達や集団生活で学ぶ社会的発達を促すこと、そして登園・登校は週日であることなどは、ストウの活躍から受け継がれてきたと言えるでしょう。

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