シリーズ【イギリスの幼児教育】 第8回:乳幼児期に形成される親子の絆の大切さを提唱した ジョン・ボウルビィ
イギリスとゆかりのある幼児教育・保育の偉人たちを紹介しているこのシリーズ。今回は、乳幼児期の親子の愛着がその後の子どもの人格形成に大きく影響する「アタッチメントセオリー・愛着理念」を唱えた、イギリス人精神科医のジョン・ボウルビィ(John Bowlby, 1907–1990)をご紹介します。
1907年、ボウルビィは、ロンドンの裕福な家庭に生まれました。父親は王室の医師も務めたほどのロンドンでは名の知れた外科医。しかし、彼の幼少期は、その時代のアッパーミドル階級にありがちな親子の接触が希薄なものでした。ボウルビィを含めて6人の子どもたちは、ほとんどナニーやナースメイドによって育てられ、当時、戦争に従軍していた父親とは年に1、2回、母親と過ごせる時間も日にわずか1時間程度だったと言われています。また、戦時中の爆撃を防ぐために7歳で兄と寄宿学校に送られたボウルビィは「自分なら、犬でも7歳では寄宿学校には送らない」と当時を振り返って語っています。
やがて、ボウルビィは外科医の父に倣ってケンブリッジ大学で医学を学び始めます。ところが、途中で医学より発達心理学に強い関心を持つようになり、心理学者、精神分析医としてのキャリアを志すようになりました。
ボウルビィは、心理学者としての研究を進める中で、学校や病院で適応障害や非行傾向のある子どもたちや、戦時中に家族から離れて疎開してきた子どもたちと接する機会を得ています。
このような、問題を抱えた子どもたちに直に関わった経験と、彼自身の生い立ちが、児童心理学上、最も著名な理論の1つである「アタッチメントセオリー愛着理念」が生み出されるベースになったと言えるでしょう。
次回は、その「アタッチメントセオリー愛着理念」について詳しく説明します。